漫画「タイガーマスク」(原作・梶原一騎、まんが・辻なおき)の最終回は子ども心にも悲しかった。タイガーの正体である伊達直人はトラックにはねられそうになった子どもを助けようと飛び出し、身代わりに死んでしまう▼あんなに強かったタイガーが交通事故であっけなく…。死の間際、上着のポケットにしまっていた虎のマスクを川に投げ捨てる。死んだ後も自分がタイガーだったことを隠し通すためである。子どもたちへの善行も知られず、永遠に報われることのない最期である▼現実の「伊達直人」は決してそんなことはなかったし、もちろん、亡くなってもいない。十七日付夕刊にこんな記事が載っていた。「タイガーマスク お元気に」▼「伊達直人」を名乗り、兵庫県内の児童養護施設にクリスマスケーキなどを三十二年間、贈ってきた男性がいらっしゃる。お気の毒なことに重い病にかかり、十一月に入院し、手術を受けた▼それを施設の子どもたちが知る。子どもたち二百四十五人と職員は本名も顔も知らない「伊達直人」に励ましと感謝の寄せ書きを贈ったそうだ。「自分のことをこれほど心配してくれるとは」。「キザ兄ちゃん」もさぞやうれしかったことだろう▼誰かが自分のために差し伸べてくれた温かい手。その手に元気がなくなれば、お返しに温められた手で握り返す。見ている、こちらも温かい。

 
 

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