お正月の凧(たこ)揚げの光景をめっきり見なくなった。初春の空から消えたのは一九八〇年代の半ばぐらいか。一時は和凧よりはるかに簡単に飛んだ派手な洋凧が幅を利かせていたが、それさえも最近はとんとお目にかからぬ。寅さん映画の中に青空に舞う奴(やっこ)凧を見て、懐かしさで胸がいっぱいになるという人もいるだろう▼凧、コマ、羽根つき、すごろく。消えて久しいかつての正月の遊び。福笑いもそうである。江戸期後半に生まれ、明治期にお正月の遊びとして定着したそうだが、輪郭だけ描いた「おたふく」もいつのころからか、消えていった▼テレビ演出家で作家の鴨下信一さんが興味深いことを書いている。福笑いが爆発的に流行した時期があるそうだ。さてお分かりだろうか▼終戦の翌年というから四六(昭和二十一)年のお正月のことだそうだ。戦争は終わったが、苦しい時代である。紙さえあれば自分で作れる福笑いが家族のささやかな娯楽になったか▼「食べるものも着るものもなかった年の救いは、(福笑いの)あの[福]の字だった」(『昭和のことば』)。福笑いに福を求める当時を思えば切ない▼ふと、福笑いをやってみるかと思い立つが、あきらめる。どんなに愉快な顔ができ上がっても、見てくれるたくさんの家族がいなければ、笑いは起きぬ。おそらく、羽根つき、すごろくが廃れた理由もそこにある。