<かなしみの片手ひらいて渡り鳥>。昨年、最も印象に残った句のひとつである。句のでき栄えもさることながら、うなったのは詠んだのが人工知能(AI)だったことである▼北大の俳句AI。膨大な過去の俳句を取り込み、学ばせた結果、ここまで成長している。空を行く群れの形が片手を開いているように見えたか。<かなしみ><ひらいて>をあえて平仮名にしているあたりがコシャクである▼花鳥風月、情感という領域でも機械が人に匹敵する力をつけだしている。人間がこしらえた機械とは分かっていても、何だか人のお株まで奪われてしまうようで少々落ち着かなくなるところもある▼そのせいだろうか。将来、人に取って代わりそうな機械が少々トチったと聞けば、「まだまだだな」と先輩づらをしたくなる。JR東日本が山手線で行った自動列車運転装置(ATO)の走行実験の話である。おおむね順調だったそうだが、目黒駅のホーム手前で停車するなど、ミスもあったらしい▼記事にあった運転士経験のある職員の感想がおもしろい。「やや下手くそな運転」。事実そうだったのだろうが、辛口なコメントの裏にあるのはひょっとしてライバル心か▼無論、「やや下手くそな運転」の早期上達を願う。人口減で運転士の確保もやがては難しくなるだろう。人に取って代わっていただかねば困る大事な後輩である。