「…………。結局、なんていうのか。………………。よく分かりませんね。………。…………。………。時々-。……………………」▼パソコンの不調ではない。小説の一部を写している。実際の「…」はもっと長く、一ページ近く続いているところもある。『その後の仁義なき桃尻娘』の中の「大学番外地 唐獅子南瓜(かぼちゃ)」▼「…」に込められているのは語るべき言葉がない主人公の悲しさ、愚かさか。斬新な表現方法にひっくり返った人もいるだろう。喪失感に心の中にたくさんの「…」が浮かぶ。その『桃尻娘』や『窯変源氏物語』などの橋本治さんが亡くなった。七十歳▼小説、美術、社会批評まで多岐にわたった執筆活動。橋本さんの仕事を振り返ろうとすればあまりの大きさに「結局、なんていうのか。……」となる▼少年期のエピソードがその仕事を考える上のヒントになるかもしれぬ。近所の家が小鳥を飼っていた。橋本少年は原っぱでハコベを摘んで渡していた。ありがとうと言われた。役に立ったことがうれしくていつまでも心に残ったという▼役に立ちたい。その一心だったのだろう。「枕草子」などの古典を柔らかな言葉に直して今の人に運ぶ。小説で楽しませる。すべての仕事は誰かへのハコベか。深夜、甲州街道の大原交差点を通る。ご実家はこの近くだったはずだ。病にも原稿用紙を求めた人に感謝する。