タイタニック号には、沈没の一時間ほど前を含め一日に六回も氷山に関する警告が届いていたそうだ。高度の安全設計を誇っている船でもある(ダニエル・アレン・バトラー著『不沈 タイタニック』)。最近、豪華客船を世界に見立てた例え話にはっとさせられた。「私たちは、タイタニックの乗客のようだ。目の前の氷山を無視して、優雅な食事と音楽を楽しんでいる」▼発言したブラウン前カリフォルニア州知事は、世界の終わりまでを象徴する「終末時計」を動かす委員会の幹部を務める。米国のニュースによると先日、警告の言葉を発し、今は核の脅威などで「残り二分」であると発表した▼残り二分は昨年と同じだが、冷戦期の一九五三年と並ぶ最悪の時間だ。正しいなら、世の中は危機から目をそらしていよう▼昨年、米朝首脳会談で北朝鮮が半島の非核化への努力を約束した。わが国の上をミサイルが飛ぶこともなくなっている。危機を忘れさせる旋律かもしれない▼だが、氷山は消えていない。中距離核戦力廃棄条約を巡る米ロの話し合いが、物別れに終わったと昨日報じられた。失効が近づく。なにより北朝鮮の非核化が進んでいない▼二回目の米朝首脳会談の開催が、決まった。重要な会談を前に米国から非核化への悲観論が聞こえる。時計が正しくないことを祈るが、目をこすり暗い海をみつめる時だろう。