腕利きの営業担当者が書いた「指南書」を読んでいたら、セールスの技術としてなるほどと思うものがあった。売ろうとする製品の悪い面にも言及することだそうだ▼売るために製品の良い面ばかりを強調したくなるのが普通である。そこをあえて「少々高いですが」「ここはやや操作しにくいですが」と不便な部分にも触れる。お客さんはこの営業担当者に正直な人という印象を強め、心を開くようになるらしい▼とすれば、このセールスの人はさほど優秀ではないかもしれない。トランプ米大統領の一般教書演説の感想である。「空前の経済繁栄だった」「雇用は最高」「もし私が大統領になっていなければ、北朝鮮との大きな戦争で数百万人が犠牲になっていた」-▼この「営業トーク」はやや眉唾ものも含めて、自分の手柄と自慢が続く。米国第一主義や乱暴な政治手法に対する国内外の批判を見て、謙虚に反省する姿勢を少しでも示せば、大統領への見方も変わっただろうが、相変わらず、一本調子の売り口上である▼国の団結も訴えていたが、「分断」を招いたその人自身が態度を改めなければ、無理な相談だろう▼演説時間は八十二分で、近年では最長の八十八分に迫る広長舌。団結には「ハムレット」のポローニアスの台詞(せりふ)が必要である。「どんなひとの話も聞いてやれ。だが、おのれのことをむやみに話すでない」

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