政界用語で「大臣病」といえば、良い意味ではあまり使われない。そのポストを手にしたいという欲望と計算。関心は大臣になって何をしたいか、どんな仕事をしたいかではなく、大臣になること。悲しい「患者」は大勢いる▼珍しい症例もある。その政治家の症状は例の病に似ているが、とにかく仕事がしたいのである。仕事がないことが許せぬ。だから自分を使ってほしいと願う。胸を張るべき「大臣病」の政治家が亡くなった。与謝野馨さん。七十八歳。博識と自信の政治家であった▼経験した閣僚は兼務も含め十以上。聞いたことのない数である。国会で官僚との二人羽織よろしく、耳元で答弁を教わる大臣は珍しくないが、その必要の一切ない本物の大臣だった▼「自分はアウト・オブ・ポリティクス(政治の外側)」。長い間口癖になっていた。政争や権力闘争だけの政治屋にはならぬ。政策と仕事の政治家になる。そうご自分に、言い聞かせていたか▼その分、自民党の野党転落や落選で仕事ができなくなると、ひどく気落ちしていた。自民党を離れ、民主党政権でも閣僚になったのはただ仕事がしたいの熱のせいかもしれぬ▼<六分の侠気(きょうき)四分の熱>。祖父与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」。国会運営に長(た)け、野党の切なさも理解した。今の自民党に最も欠ける部分である。侠気と熱の政治家が人生という議場を去る。