漱石の『坊っちゃん』の中に生徒が先生にいたずらを仕掛ける場面がある。宿直室の布団の中に大量のバッタ(実際はイナゴ)を入れておく▼漱石が松山中時代、実際に見聞きしたいたずらという。当時はしかられておしまいだっただろうが、現代のいたずら、悪ふざけはそれでは済まされない。飲食店やコンビニなどの従業員が食品を不衛生に扱う動画を会員制交流サイト(SNS)に投稿し、問題となるケースが相次いでいる▼ごみ箱に入れた魚をまな板の上に置く。口に入れた、おでんの具を吐き出す。そんな場面を公開すれば、店の評判を傷つけ、大騒ぎになることは容易に想像できそうだが、投稿で注目でも浴びたかったか▼面白半分の不愉快な動画の投稿に待っているのは大きな代償である。店を運営する企業側は従業員への法的措置も含め、厳しく対応する構えを見せている▼『坊っちゃん』のいたずらを今、実際に行って、その場面をSNSに投稿したらどうなるだろう。おそらく相当な騒ぎになる。「お疲れの教師になんてむごいことを」「バッタもかわいそう」。SNSの非難の嵐を想像する。いたずらは若気の至りでは済まされぬ時代であることをよく覚悟すべきだろう▼アルバイトに向かう子どもには「いってらっしゃい」に続いて、一言付け加えた方が良さそうである。「いたずらだけは絶対にしないで」