豪放磊落(ごうほうらいらく)な人柄で多くの人を魅了した囲碁棋士・藤沢秀行さんと、将棋棋士の芹沢博文さんが、こんな話をしたことがあったという。我々は囲碁や将棋をどれほど分かっているのか。神様が百としたら、どの程度か▼二人で紙に数字を書いて見せ合ったら、答えが一致した。わずか六か七。藤沢さんは書いている。「碁打ちを五十年もやっていながら、何も分かっていない。ボウ然とするばかりだ。しかし失望はしていない。奥が深く、変化が広大無辺だからこそ、我々は強くなれる」(『勝負と芸』)▼それが今や囲碁や将棋でトップ棋士たちが人工知能(AI)に勝てない時代となった。AIが百としてさて我々は…と問わねばならぬ時代となったのだから、それこそボウ然となる▼だが、そんなコンピューターの力を使い、飛躍的に力を伸ばした棋士もいる。十四歳で将棋の公式戦最多連勝記録に並んだ藤井聡太四段だ。「人間では思いつかない手を指すソフト」との対局で、既成観念にとらわれぬ一手を追い求めているそうだ▼囲碁の世界最強棋士の一人・中国の古力九段はAIについて、こう評している。「囲碁の神秘的な一つの門を開けてくれた。人類とAIは、碁の世界の大きな幕を開けるよう共に探究している。新たな革命が進んでいる」▼藤井四段は連勝記録だけでなく、「六か七」の壁を破ってくれるだろう。