【不良】…「質・状態がよくないこと。また、そのさま」。「品行・性質がよくないこと。また、その人」。字引は実にさっぱりとしたものである▼されど、その人は【不良】の中に字引では説明されぬ価値を見ていたのか。不良と呼ばれることを宝物のように考えていた。「百六歳の不良少女」。俳人の金原(きんばら)まさ子さんが亡くなった▼高齢の俳人として注目を集めたが、その作風は年齢による落ち着きや柔らかさとは無関係でもあった。<エスカルゴ三匹食べて三匹嘔(は)く><菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ><百万回死にたし生きたし石榴(ざくろ)食う>▼独特の感性と世界観は読み手の心をざわつかせた。百歳を超えても俳句というナイフを強く、鋭く振り回し続けていた。そんな印象がある▼幼い子を自分の過ちで亡くした過去がある。夫の家出と自分の不貞についても告白している。波高い人生の間に積み重なった悲しみや人間のどうしようもなさ。そのハイクツクリは人の「不良」な部分を受け止め、愛(いと)おしいとさえ思っていたのだろう。その心持ちがぷんと人間の臭いがする不思議な句に刻まれていた▼「いい人は天国へ行けるし わるい人はどこへでも行ける」。句集「カルナヴァル」(草思社)の中に、こんな言葉があった。もちろん天国には行ける。だが、少女はおそらく、そこだけにとどまってはいないだろう。