映画などの巨大怪獣が好んで破壊するものや場所といえば、ビル、橋、鉄道、高速道路などが浮かぶが、「シン・ゴジラ」などの映画監督、樋口真嗣さんによると、電柱も欠かせないようだ。なぎ倒される電柱。切断され、宙を舞う電線。なるほど迫力ある場面が撮れそうである▼監督が「シン・ゴジラ」製作にあたって、ゴジラにどこを壊させようかと町を見て回ったとき、昔に比べて、電柱が減ってしまったことにがっかりしたそうだ。「電柱と電線が織りなす風景が東京の顔なのに」▼ゴジラが聞けば、涙ぐむかもしれぬが、これも時の流れである。国土交通省は二〇二〇年度までの三年間に全国約千四百キロの道路で電線を地中に埋設し、無電柱化するとの計画をまとめた▼進捗(しんちょく)率の目標を盛り込んだ国の計画策定によってやや遅れ気味だった無電柱化のペースも上がるだろう▼震災時、倒れた電柱で救援物資の運送の妨げになる危険や景観の向上。それを思えば、無電柱化の利はあるだろう。欧米に比べ、日本の空は電柱と電線が大きな顔をしすぎているのも確かである▼<いゝえ、空で鳴るのは、電線です電線です>(中原中也「春と赤ン坊」)。なくなれば、さぞやすっきりするか。寂しくもある。景観を悪くしていると評判はさんざんだが、明治以降の長きにわたって日本の風景と生活を支えてきた電柱と電線である。