晴れた空には、妙なものが見えた。<落下傘が二つふわふわ降りてきよるバイ、おかしかねえ>。長崎測候所で、観測当番が言う。天気図の修正をしていた所長が立ち上がった。<広島に落とされた新型爆弾かもしれない、早く防空壕(ごう)に…>▼長崎海洋気象台の『100年のあゆみ』には、原爆投下の日の気象やきのこ雲の詳細とともに職員の証言が残されている▼職員が部屋から駆けだすと、青白い閃光(せんこう)が走る。外の景色は<黄色のフィルターを>通したように感じられ、長崎市上空には小さな丸い雲が見えた。<砂浜に寄せる白いさざなみそっくりな…雲は…その輪を広げていく>▼続いて<百雷が一時に落ちたかと思う爆発>。爆風と熱にのまれた。字を追っていけば、その時の緊迫感が恐怖を伴って迫ってくる。貴重な記録だろう▼きょうは長崎原爆の日。悲しみ、苦しみ、恐怖を体験した人々が少なくなる中で迎える平成最後の原爆忌である。被爆者の六割以上が、高齢による体力の衰えなどで被爆体験を語っていない。共同通信によるそんなアンケート結果も、先日の紙面にあった▼生の声が細る一方で、世界には、今なお一万五千発の核兵器があるという。<さざなみの雲が広がったところに巨大でグロテスクで陰惨な色彩のきのこ雲が不気味に浮いていました>。あの時を思う必要がまだまだあると胸に刻む日だろう。