<闇があるから光がある>。作家小林多喜二は若いころ、恋人にあてた手紙でそう書いた。北海道小樽市の飲食店で、家族の借金のため、苦労して働いていた不遇の女性だ▼手紙は続く。<闇から出てきた人こそ、一番ほんとうに光の有難(ありがた)さが分(わか)るんだ>。今はつらくても必ず明るい日があなたに訪れると励ましている。弾圧の中でも才能を発揮した作家の悲劇的な人生を思えば、いっそう心に響く。希望の言葉として今も語られる理由だろう▼地震で北海道中が、闇に包まれた。復旧は進んでいるが、全道が一時停電する異常事態はやはり想定を超えている。電力システムの弱みが露呈したという。電気が欠かせない世の中で地震の秘めた怖さをみせつけられた思いだ▼日常生活から公共の交通まで、影響は広く及ぶ。中でも、輝かしい先端技術が集積した携帯電話は、電源を失ったときの弱さをみせた。情報の収集も伝達もスマホへの依存は進む。光のない夜、不安にさいなまれた人は、多かったに違いない▼その不安に乗じるようにデマも流れた。さいわい致命的混乱はないようだ。信号機が光を失った中でも、保たれた人々の落ち着きもあるだろう▼多喜二の手紙は言う。<世の中は…不幸というのが片方にあるから、幸福ってものがある>。闇をくぐり抜けてきた被災者たちの苦労や忍耐。将来への糧となってほしい経験だ。