「おしん」「渡る世間は鬼ばかり」などの脚本家、橋田寿賀子さん(93)は大学在学中に映画会社の入社試験に合格した。戦後間もない時代。当時、その世界での女性進出はまだ珍しく、入社しただけで雑誌のインタビューなども受けたそうだ▼脚本部に入ったが、男社会に泣かされる。同期の男性社員は脚本の下書きを任されるのに自分には回ってこない▼ついにある日の宴会で怒りが爆発する。上司に酌をしろと言われ、「同じ(脚本)ライターの男がしていないお酌を、なぜ私がしなければならないの」。そのせいで「橋田は使えない」と悪評を立てられたそうだ。「屈辱的な時代だった」と振り返っている▼橋田さんが聞けば、こんなことをまだ…とため息をつくだろう。百十四銀行(高松市)前会長のセクハラがらみの処分である。会食中、取引先の人間が女性行員に働いた不適切な行為をとめず、守らなかったことが社内調査で問題になった▼昭和のドラマでもあるまいにお得意さんのご機嫌とりでそれを目撃しても、もみ手でもしていたか。女性行員にしてみれば取引先から不快な思いをさせられた上、味方のはずの上司は見て見ぬふりとあっては本当に「渡る世間は鬼ばかり」と思えただろう▼商いがだめになろうと部下を泣かせる品のない取引先を一喝する熱血上司。同じ昭和調のドラマならこっちの方が見たかった。