用意いたしますものは、まず昨夜のシチューの残り。ここに刻んだラッキョウ、しば漬けを投入する。さらには残っていたようなチーズケーキも加える。そこに納豆のタレ、ケチャップ、中濃ソース。黒豆、オイスターソースなども入れ、煮込むこと二時間。「談志カレー」の出来上がりである▼立川談志さんの弟子、立川談春さんが『赤めだか』に書いている。入門の日、談志さんに作り方を教えてもらったそうだ。目をつぶって一口食べたところ「意外にもうまかった」とあるが、お試しにならぬ方がいいかもしれぬ▼「談志カレー」はシチューの残りをベースにしているが、前の晩にこしらえたカレーはより味が深く、まろやかになったように感じられるものだ。いわゆる「二日目のカレー」▼そのファンには悲しいお知らせである。なんでも作り置きのカレーにはウエルシュ菌なる菌が発生しやすく、食中毒の原因となるそうだ。東京の幼稚園では今年三月、前の日のカレーを食べた園児が食中毒症状を訴えている▼煮込んでいるから大丈夫なはずだと怒るファンもいるか。残念ながらその菌の中には熱に強いのもいて、常温で放置すれば、増殖することもある▼<秋風やカレー一鍋すぐに空>辻桃子。句の季節とは違うが、ものの傷みやすい時季である。その日に食べきって、鍋は空にしてしまった方が良さそうである。