通勤電車の苦痛を少しでも和らげる方法はないか。若い会社員がこんなことを思い付き、ある朝、同じ車両の通勤客に提案をした。「毎日、同じ時間、同じ車両に乗っているのも何かの縁。皆さん友人になりませんか」▼友人になれば、押されても足を踏まれてもさほど腹は立つまい。この提案にとまどっていた通勤客もやがては打ち解け、満員電車の中で会話を楽しむようにまでなった。ラッシュの苦痛が消えた▼お察しの通り、フィクションである。三十年近く前に聞いた題名も作者も忘れたラジオドラマ。良いアイデアとは思ったが、悲しいかな、われわれは誰とでも友人になれるほど、器用にはできていない▼このアイデアは期待できるか。通勤ラッシュを緩和するキャンペーン「時差ビズ」が東京都内を中心に昨日から始まった。朝の出勤時間をずらしてもらい、集中を回避する作戦という▼二十五日までの期間中、鉄道各社は早朝の時間に臨時電車を投入。協力企業は勤務時間を柔軟にする「フレックスタイム」「テレワーク」の促進で援護する▼<満員電車の中 くたびれた顔をして 夕刊フジを読みながら 老いぼれてくのはゴメンだ>(ザ・ブルーハーツ『ラインを越えて』)。明治以降のまじめな勤め人を苛(さいな)んできた長年の「宿敵」に総力戦で勝利したい。一矢報いぬまま「老いぼれていくのはゴメン」である。