筆洗
2017年7月25日
英作家ミルンの「クマのプーさん」の最近の話題といえば、中国の習近平国家主席である。その体形から習主席をプーさんにたとえる風潮があるそうで、それが当局の不興を買い、一時的に、「プーさん」という言葉がネットで検索できなくなっていたそうだ。プーさんもとんだとばっちりである▼これもプーさんに関連する。残念ながら訃報である。評論家で難民救済に長年取り組んでいらっしゃった評論家の犬養道子さんが亡くなった。九十六歳。犬養さんはプーとクリストファー・ロビンの物語を日本に連れてくるきっかけをつくった一人でもある▼一九三三年、犬養さんはクリスマスプレゼントの本を「読んで」と家に出入りしていた女性にせがんだ。その本が「プー横丁(よこちょう)にたった家」の原書。女性は後にプーのシリーズを翻訳する児童文学の石井桃子さんである▼大人になったら自分にしかできない仕事をしたい。プーの物語の想像力が幼い犬養さんの翼を広げた。翼は難民の元へと向かった▼ボランティアにとって最も大切で難しい仕事は何か。こう書いている。「ただ、そこにいる」。「そこにいて人々の苦や忍耐を共にする。共に立つ。時には一日じゅう一緒にうずくまる、手を握りあい、微笑(ほほえ)みをたやさず、はげましあいながら、うずくまる」▼痛みや悲しみを共に背負いうずくまった人が、「プー横丁」へ向かう。