「あたりき車力車引き」「言わぬが花の吉野山」「見上げたもんだよ屋根屋のふんどし」。言葉遊びの「無駄口」。一種の語呂合わせで、何かの一言に語呂の良い言葉を加え、おもしろさや威勢の良さをまぶす。映画の寅さんがよく使っていたが、最近はあまり聞かれない▼「親ばかちゃんりんそば屋の風鈴」。親の欲目や過保護を冷やかす、この無駄口はまだ使われている方だろう。『蕎麦の事典』によると宝暦(一七五一~六四年)ごろ、江戸の町に屋台に風鈴をぶら下げたそば屋が登場したとあるが、これとの関係か▼「親ばか」も控えめな風鈴の音ほどなら笑いの種にもなる。されど、ここまでくると親ばかの親とばかの順をあべこべにしたくもなる。山梨県山梨市の職員不正採用事件である▼中学校長が自分の息子を市役所に採用してもらおうと当時の市長(収賄容疑で逮捕)に現金八十万円を渡したとして贈賄の容疑で逮捕された▼子どもを等しく扱うべき立場を忘れ、わが子ばかりはと裏口採用を頼む校長とそれを請け負う市長。古い社会派ドラマも顔を赤らめる展開である。これが二十一世紀の日本とは、頭を抱える▼いたたまれないのは採用された息子だろう。息子の将来を心配したのかもしれないが、とどのつまりが息子を傷つけている。その「あたりき」がなぜ分からなかったか。風鈴の音が寂しく聞こえる。