<ランドセルしょった/六歳のぼく/学校へ行くとき/いつもまつおかさんちの前で/泣きたくなった/うちから 四軒さきの/小さな小さな家だったが/いつも そこから/ひきかえしたくなった…>▼そんな詩を書いたのは、二〇〇〇年に六十歳で逝った辻征夫さんだ。辻さんは、小学校の事務職員として働いたことがあった。だが、そろばんができないため経理はお手上げ。要領が悪く、子どもたちをハラハラしながら見ていることしかできなかったという▼そういう詩人が生きていたら今ごろ、ハラハラどころではなく、いても立ってもいられなかったろう。政府の調査では、不登校を始めるのが最も多いとみられるのは、夏休み明け。そして、子どもの自殺が最も起こりやすいのは、九月一日前後▼「行きたくない」が「生きたくない」となってしまう子がいるのなら、はっきり伝えたい。「行きたくない」という気持ちを大切に生きてほしい、と▼辻さんの詩は、続く。<未知の場所へ/行こうとするとき/いまでも ぼくに/まつおかさんちがある/こころぼそさと かなしみが/いちどきに あふれてくる/ぼくは べつだん泣いたって/かまわないのだが/叫んだって いっこうに/かまわないのだがと/かんがえながら 黙って/とおりすぎる>▼だれもが、そんな「まつおかさんち」を心に抱えているはずだ。