登場人物は夫婦の二人。時…晴れた日曜の午後。場所…庭に面した座敷。劇作家、岸田國士(くにお)の「紙風船」は、一九二五(大正十四)年の作品。短い一幕ものだが、今でも人気が高く、若い演劇人による上演もある。描かれているのは若い夫婦の日曜の一こま。夫が友人の家へ一人で出かけようとしたことが妻はおもしろくない▼結局、夫はしぶしぶ家に残るが、納得はしていない。夫婦の間はぎくしゃくする。夫「あゝあ、これがたまの日曜か」。妻「ほんとよ」。こんな調子である。こういう神経戦はどこのお宅でもあるのではないか▼あの夫婦は退屈な日曜を嘆いていたが、昨日の気の重い日曜に比べれば、それは平穏、平和ではないだろうか。北朝鮮が六回目の核実験に踏み切った▼日本上空を通過させたミサイル発射が二十九日である。国際社会の制裁と圧力。それが足らぬのか効果がないのか北朝鮮に挑発行為をやめる気配が見えない▼過去最大規模の水爆実験という。核、放射線、水爆、揺れ、震動波形。マグニチュード5・7…。刻々と入ってくるニュースの言葉。乾いた言葉の響きに原爆投下、大地震など過去の悲劇まで連想してしまう。笑い声が似合うべき日曜が不安の黒い色で塗り込められた気分である▼不安のなき普通の日曜、日々を守りたい。そろそろ、よい季節になってくるのだ。かの国も、この国も。