犬もカラスも昔は足は三本だった。不思議な話だが、能登地方に伝わる民話である。三本の足の犬はある日権現さまに「どうかもう一本」と願い、ならばと権現さまはカラスの足を一本取り、犬に与える。それで犬もカラスも今の姿になったそうな▼犬が用を足す時、足をぴょいと上げるのは、せっかくいただいた足を汚さぬためというオチがつく▼犬は満足だろうが飼い主のほうはその犬の小用に悩みもする。散歩途中の壁や柱、植え込み。あちこちに粗相をされては世間さまに申し訳なく、そのたびにペットボトルの水で清めはするのだけれど、時にはここで用を足さないでと注意され、犬も飼い主も頭を下げて、しょんぼり帰る▼トイレに限らぬ。エサと水をきちんと与え、寝床を整え、散歩も運動もしつけも欠かせぬ。主人への愛情、友情というそれ以上の報酬を犬は支払ってくれるのだが、犬を飼うことには覚悟と体力がいる。いくつもの靴、眼鏡を破壊されても取り乱さぬ忍耐がいる。悲しい別れも来る▼犬猫の飼育調査によると、猫の推定飼育数が今年初めて犬を上回った。犬を飼わない理由としては「十分に世話ができない」の回答が多かったそうだ▼王座陥落に犬はがっかりするか。されど、その調査結果は、世話の覚悟がなければ飼ってはならぬというルールの定着した証拠でもあろう。犬は寂しい顔するまい。