「雪は天から送られた手紙である」とは中谷宇吉郎博士の名言だが、雪の結晶を「優美な象形文字」と呼んだのは、雪の研究に六十六年の生涯を捧げたウィルソン・ベントレーだ▼米国北部に生まれた彼は少年時代に雪の結晶の魅力にとりつかれ、独学で撮影方法を編み出した。周囲から変人扱いされ、学会から無視され、ようやく初の論文を発表できたのは、今から百二十年前、三十三歳の時だ▼その論文には彼の慧眼(けいがん)を物語る一節がある。「そのすばらしい精巧なデザインから、ひとつひとつの結晶の生いたちと、雲の中を旅してくるあいだに受けたさまざまな変化について、多くのことを学びとることができる…生涯の歴史が、これ以上に優美な象形文字(ヒエログリフ)で書きつづられたものがあったろうか」(小林禎作著『雪の結晶はなぜ六角形なのか』)▼そんな「象形文字で書かれた手紙」が、天からどっさり届き続けている。交通の足は乱れ、JR信越線では満員の列車が十五時間も立ち往生した▼乗客はイライラうんざりさせられただろうが、互いに席を譲り合って疲れを癒やしたと聞けば、その座席のほんのりとしたぬくもりが伝わってくるようだ▼雪は、結晶の形から「六花」(むつのはな)とも呼ばれるが、立ち往生の列車に咲いたのは「むつみあいの花」か。雪国では、そういう花が、六花に負けず、咲いているのだろう。