名作『一九八四年』や『動物農場』の著者ジョージ・オーウェルが、英国の雑誌に「あなたと原子爆弾」と題した一文を発表したのは、一九四五年の十月のことだ▼この新兵器は、世界をどう変えるか。オーウェルは、原爆の製造には巨額の資金と高い工業力が求められるから、開発できる国はごく少数にとどまるだろうとの分析に基づいて、こう予測した▼<一瞬で数百万の人々を消し去る兵器を持った、二、三の怪物のような超大国が世界を分割するのを、私たちは目にすることになるだろう>。そして、核を持つ超大国が互いを制することができぬまま対峙(たいじ)し続ける状態を「冷戦」と名付けた▼慧眼(けいがん)の作家が、広島と長崎への原爆投下からわずか二カ月後に「冷戦」時代の到来を見通してから七十三年。私たちが今目にしているのは、支配体制を守るために、貧しい国力を核の開発に傾注している小さな怪物国家だ▼オーウェルは、核兵器の出現で<権力がさらに少数の者に集中し、支配される者、抑圧される層はさらに絶望的になる>とも予測したが、飢えに苦しみながらも、独裁体制への忠誠を強いられる北朝鮮の人々の姿は、作家の言葉そのものだろう▼北朝鮮が米国に首脳会談を提案し、米国も応じる構えを見せた。それは、今なお「冷戦」が続く朝鮮半島に雪どけの風を吹かせるのか。春の足音は、まだ聞こえぬ。