ベルギーで出版された本に、皇太子時代の昭和天皇を撮影したという写真が載っている。場所は同国のイープル。写真説明によると、第一次大戦の後、激戦地だったこの地を訪問した際の一枚だという。がれきの山の上に、硬い表情で立たれる姿から、悲惨な戦闘があったことが伝わってくる▼第一次大戦は軍用機、戦車、潜水艦など近代兵器が一斉に使われた。パンドラの箱が開いた戦争だ。イープルでは、化学兵器が初めて大規模に使われ、大量破壊兵器の使用に道を開いた▼日本だけでなく、イープルには戦後、外国から多数の視察があったという。草木が枯れ、虫も消えたという街はそれほど荒れ果てていた▼以来、およそ百年がたつ。人は何を学んできたのかと思わざるをえない事態だ。またも化学兵器使用を強く疑わせる攻撃がシリアであった。無差別に襲ってくるガスの脅威に今回も子どもたちがさらされた▼米国などはアサド政権の仕業とみて軍事行動に前のめりだ。政権側は否定し、ロシアや周辺国の思惑も絡み合う。事態は複雑化している。空爆となれば、民間人への被害が心配だ。政治的解決の道はないのか▼ギリシャ神話のパンドラの箱の話には複数の解釈がある。災いや病が箱から飛び出した後、希望は残ったとする説と、希望は閉じ込められたままだという説だ。百年越しの希望を探さなければならない。