四月にしてはずいぶん気温が高いと思っていたら、宮城県の気仙沼漁港では先週カツオの初水揚げがあったそうだ。例年よりかなり早い▼<初鰹芥子(がつおからし)がなくて涙かな>。江戸期の不遇の絵師、英一蝶(はなぶさいっちょう)。諸説あるが、生類憐(あわれ)みの令に触れ、島流しにあったときに詠んだ句と聞く。島にはカツオはあっても、カラシは手にいれにくかったか▼現在は生姜醤油(しょうがじょうゆ)などが一般的だろうが、江戸の当時は、カツオにカラシは付き物だったようだ。こんな小咄(こばなし)がある。カツオをカラシで食べようとしていた二人の男。「カラシは腹を立ててかかないと効かないぞ」「そんなに急に腹が立つもんか」▼そこへカツオ売りがやって来る。男の一人が一本は値が張るから片身だけ買おうという。カツオ売りはこれに応じ、半分におろすのだが、男は突然、「やっぱりやめた」。カツオ売りは怒りだす。「おろさせておいて、そんな話があるもんか」。そこで男、「おっと、カラシをかいてくんねえ」▼粉のカラシは怒ったように力強くかかなければ、効かないと子ども時分に教えられた世代もいるだろう▼今年のカツオには江戸っ子を気取って、カラシをかいてみるか。カツオ売りを怒らせるまでもない。森友、加計、イラク日報、セクハラ…。国会周辺を想像すれば、強力なカラシがかけそうである。効きすぎより情けなさで<涙かな>となるやもしれぬ。