玉突き、象、プラスチック。一見、何のつながりもなさそうな三語だが、この三語で語られる歴史的事実がある。ビリヤードの球はかつて象牙でこしらえていたが、それでは入手が難しい上、高くつく。一八六三年、米国のビリヤード卓の製造会社が象牙に代わる素材を発明した人間に大金を支払うという広告を打った▼応募したのがニューヨークの発明家ジョン・ウェズリー・ハイアットで植物由来のセルロースからセルロイドを合成。賞金は逃したそうだが、これが初の合成プラスチックの一つとして、世界を変えていく▼今や世界で年間に生産されるプラスチックは約四億トン。ペットボトルから医療機器、ジェット機まで、安価で丈夫なプラスチックなしではもはや人間の生活は成り立たぬ▼問題もある。廃プラスチックが海に流れ、海洋生物を痛めつける。深海、北極海の海氷を含め、あらゆる海で細かくなったマイクロプラスチックが確認されている▼欧州連合がストローや使い捨てのスプーンなどプラスチック食器の禁止やペットボトル回収の厳格化を検討している。プラスチックが分子レベルまで分解するのに約四百五十年と聞けば、一刻も早い歯止めが要る。途上国への回収システム援助も欠かせまい▼プラスチック、海、人間。つながっている。対策を怠ればその不吉な玉突きの球は人間のところへ跳ね返ってくる。