動物の言葉を自由に話せるドリトル先生の物語には幅広い世代のファンがいるだろう。覚えていらっしゃるか。先生に動物語の手ほどきをしたのは、オウムのポリネシアである▼「カカオイイー、フィーフィー」。意味を尋ねる先生に「おかゆはもう熱くなったか」とオウムが教える。先生は不思議がる。なぜ、今まで教えなかったか。「話したってむだでございましょう」。動物に言葉が話せるわけがないと、聞く耳さえ持たぬ人間に話しかけたところで仕方がない。オウムの答えは人間への皮肉がこもる▼動物と人間は想像以上に正確に意思疎通を図れる。それを身をもって示し、動物の声に人の「聞く耳」を向けさせた一頭の有名な雌ゴリラがこの世を去った。米ゴリラ財団のココ。四十六歳だった▼一千のしぐさを覚え、二千の英単語も理解したとは今さらながら驚かされる。しぐさで人と会話し、ときにふざけ合う。ユーモアのセンスもあったそうだ▼飼い猫の事故死を知ったココが「ひどい」「悲しい」と示す映像を見た人もいるだろう。人と変わらぬ心の動き。人もゴリラも同じ生きもの。ココはそう教えたかったのだろう▼人との会話を学んだココは幸せだったか。ゴリラは死ぬと快適な穴に行くとココが答えたことがある。その穴で、人間について「ひどい」「悲しい」と語ってはいないか。いささか心配になる。