「雨禁獄(あめきんごく)」とは雨を獄に閉じ込めることで、白河法皇の故事に由来する。ひどい雨のせいで自分の行幸を何度も延期せざるを得なくなった法皇は腹を立てて、降る雨を器の中に入れ、それを監獄に置いて罰したと、源顕兼の「古事談」にある▼獄につなぐ程度ではどうにも気が治まらぬ。ひとびとを情け容赦なく苦しめる、この大雨である。土砂崩れや水害などによる被害が西日本を中心に各地で相次いでいる。死者、行方不明者も時間が経過するにつれて増えている。心配である▼一時、今年の梅雨明けは全国的に早いように感じていたのが、そうではなかった。人の目を欺いていたわけではなかろうが、西日本から東日本にかけて梅雨前線がしぶとく居残っていた。そこに南からの暖かく湿った空気が流れ込み、この記録的な大雨になったと聞く▼気象庁の特別警報の表現である「数十年に一度の大雨」。「数十年に一度」のはずだが、毎年のように耳にしている気がしてならない▼気候変動による高温化の影響だろうか。「異常」「記録的」が、もはや「普通」になりつつあることをおそれる。そして大勢の犠牲に大粒の「空知らぬ雨」も降る。空から降らぬ雨とは、涙のことである▼恨めしいことに非常に強い台風8号が南から接近する。科学技術がいかに進歩しようとも、雨を獄につなぐことはできない。備えるしかない。