映画の「ショーシャンクの空に」では刑務所の壁にひそかに穴を掘り、その穴を女優リタ・ヘイワースのポスターで隠していた。そのポスターがやがて一九五〇年代に人気のあったマリリン・モンロー、六〇年代のラクエル・ウェルチに変わっていく。それだけの長い歳月をかけて穴を掘り、脱獄に成功する▼「アルカトラズからの脱出」では刑務所の中で自分の顔にそっくりな人形をこしらえ、ベッドに置き、これで看守の目を欺いた。海を渡るときに使ったのはレインコートを接ぎ合わせて作った舟だった▼フィクションの世界で脱獄とか逃走といえば、あの手この手の計画と工夫が必要だが、現実ではそうでもないのか。大阪府警富田林署の接見室から男の容疑者が逃走した。さほどの知恵はいらなかったと書けばやや皮肉がすぎるか▼接見が終わるとブザーが鳴り、署員に知らせる仕組みになっていたそうだが、やかましいとでも思ったのか、電池が抜いてあり、その役目を果たさなかった。容疑者は弁護士との接見後、しばらく一人で放置された形でそのすきに逃げられたとはなんとも粗忽(そこつ)な話である▼面会者と隔てるアクリル板が押し破られた形跡もあるそうでこれにもまた、その程度の強度なのかと驚く▼おかげで周辺住民はのんびりしたいお盆の時期に不安を募らせる。富田林が「とんだ話」ではシャレにもならぬ。