誰が最初に「ABCの歌」を歌うかでマペット(人形)たちがもめている。「あたしが一番に」「あんたはこの間、歌ったでしょ」「わたしの歌はかわいいわ」。収まらない中、ある人物がやって来る。「何か問題でも」。マペットたちが一斉に訴える。私が最初に歌いたい▼この人物はわけないさという顔で提案する。「どうしてみんなで一緒にうたわないのさ」。みんな、納得し、ともに歌いだす▼二〇〇一年放映の米国幼児向け番組の「セサミストリート」の一場面。その人物とは、当時のコフィ・アナン国連事務総長▼その人の訃報に触れて、子ども番組を思い出すのは少々場違いか。されど、その人が呼びかけた、「トゥゲザー(一緒に)」の声が耳に残る。そして、その言葉こそこのノーベル平和賞受賞者が一生をかけて訴え続けたことだったのではなかったのかと思える▼事務総長だった一九九七年から〇六年といえば難しい十年間だった。地域紛争、イラク戦争、エイズ(後天性免疫不全症候群)などの感染症の拡大、貧困。イラク戦争を止められなかったことを最後まで悔いていたが、いずれの難問にも粘り強く挑み続け、成果を残した▼粘り強さの理由を語ったことがある。青年期の五七年。母国ガーナの独立を目撃した。「不可能なことなどない」。自国優先の風潮の中で、「一緒に」の人の逝去が心もとない。