財政難で危機にひんしていた江戸幕府は思い切った手を打った。貨幣の金、銀の含有量を減らす元禄の改鋳だ。同量の金でより多くの小判を作る。小判の価値の水増しである▼幕府には大きな利益がもたらされたという。通貨の供給量も増えた。しかし、人々は比較的品位の高い貨幣を手元に置きたがり、新たな金貨を嫌った。悪貨が良貨を駆逐するような事態も起き、物価が上昇してしまう。含有率を操作する画期的な策だったが、経済の安定という大きな目的にはかなわなかった▼小判なら手にすれば水増しに気付くだろう。しかし、現代の省庁の数値はどうか。検証するすべを持たないと、きっと難しい。複数の中央省庁が雇用する障害者の数を長年にわたって水増ししていたという。あきれるばかりだ▼企業には達成できないと納付金を求める。なのに模範となるはずの省庁は、数の偽装で対応していたということか。数字の上では、大半の省庁が法定の率を達成していたようだ▼誇れる数値だから、官僚の世界では問題視されなかったのだろう。就労機会を拡大し、障害者も長く働ける。そんな環境を実現する手段の一つとして、数値は旗振り役の省庁に課されているはずだ▼本来の大きな目標が忘れられてしまっているのでないか。本当の数が官僚の理屈で、良貨のように駆逐されていたなら、行政の信頼は大きく揺らぐ。