蚊を自分の腕にとまらせて、血を吸わせてみる。普通の蚊であれば、かゆみが残るぐらいですむ。が、これが黄熱病患者の血を吸った蚊だったとしたらどうか。考えただけでおっかない実験を一九〇〇年九月、米国の医師ジェシー・ラジアが行っている▼黄熱病は蚊が媒介し、感染するのではないか。ラジアは自説を確かめるため、自分の体を実験に使った。幸か不幸か予想通り、ラジアは黄熱病に感染し、約二週間後に亡くなる。残したメモで、感染の原因が蚊であることを伝えた▼ラジアほどの悲壮さはないかもしれぬが、この体を張った研究成果もやがては世界から感謝される日がくるか。ユニークな科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」。今年の医学教育賞に長野県の医師、堀内朗さんの座って行う大腸内視鏡検査が選ばれた▼大腸がん検査での内視鏡検査は横になった状態で肛門から管を入れるのが通常だが、苦痛を減らす方法を自分の体で試し続けた結果、座った姿勢が簡単で痛みも少ないことを見つけたそうだ▼国立がん研究センターの調べによると、二〇一四年のがん罹患(りかん)数は大腸がんが胃がんを抜き初めてトップ(男女全体)になったという▼座位検査は見た目が不評で実用化に至っていないと聞くが、簡単で不快感も少ないのなら大腸がん予防に欠かせぬ検査のハードルも下がるだろう。座れば楽あり。