新潮社の斎藤十一はその発想力で天才と呼ばれ、こわもてで畏怖された伝説的な編集者だ。名だたる作家を育て週刊新潮や芸術新潮などの雑誌をつくり時代を築いた。俗物を名乗り「人殺しのツラが見たくないのか」「人生はカネと女と事件」「売れる雑誌より買わせる雑誌をつくれ」といった言葉を残している▼一方でクラシック音楽や絵画を愛し、教養を重んじた人だったそうだ。<いくら金になるからって下等な事はやってくれるなよ>と部下を戒めている(『編集者 斎藤十一』)▼その戒めに逆らって、道を踏み外してしまったのではないか。斎藤が心血を注いだ月刊誌、新潮45の休刊が、決まった。性的少数者への偏見に批判が集まった寄稿を最新号であらためて擁護する特集を組んだ。「常軌を逸した偏見と認識不足」があったと認めての休刊だ▼性的少数者を犯罪者である痴漢と並べて語った寄稿は主張への驚きと掲載した見識への疑いを催させる▼発行部数が、落ちているのだという。炎上商法は否定する半面、部数の低迷に直面し、「試行錯誤の過程において編集上の無理」が、生じたのだと社は発表している▼魅力的な連載などを擁した一大雑誌だ。貧するあまり、大切なものが失われてしまったか。「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事」という創業者の決意も名編集者の精神もみえなくなってしまった。