力士の取組が長引いた場合、相撲をいったん止める、「水入り」のタイミングは行司にとってなかなか難しいそうで、ただ長引いたからという理由で判断するものではない。三十六代の木村庄之助さんが書いている▼相撲には流れがあって、膠着(こうちゃく)状態が続いていても、力士としては次の攻めに向けて、ひそかに呼吸を計っている場合もある。力士の動き、審判からの指示の両方を見ながら裁かなければならない。これが難しい▼難しいかもしれないが、ここはいったん行司待ったの水入りとし、もう一度、話し合ってはもらえないものか。少なからぬファンはそう思っているだろう。元横綱の貴乃花親方が日本相撲協会に突然、引退届を提出し、会見で表明した▼元横綱日馬富士の貴ノ岩に対する傷害事件をめぐる協会と貴乃花親方の深刻な意見対立が原因と聞く。親方の一方的な言い分だけに軍配を上げるわけにはいかぬが、協会側が傷害事件の告発状を事実無根と認めるよう迫り、認めなければ、「廃業」とは穏やかではない▼そもそも、この取組、桟敷で見ていてもさっぱり理解ができぬ。ただ、角界を長く支えた貴乃花が去るというだけでは客席は納得できないだろう▼弟子のためとはいえ親方の判断も唐突に映る。二〇〇一年五月場所千秋楽の対武蔵丸戦を思った人もいるだろう。それは本当に痛みに耐えた末の結論なのか。