英国の作家オスカー・ワイルドはこう書いている。<人はそのままなら、自分に正直になれない。仮面を与えよ。そうすれば、真実を語るだろう>▼仮面は人に力を与える。非日常の世界に人を導く。世界共通の力ではないか。一部の行いではあるが、あのハロウィーンの度を越した騒ぎも、仮装で素顔が隠れて、荒っぽい地が出たからと思える▼仮面と仮装の力で、真実ならぬ神の言葉を日常にもたらす。ナマハゲをはじめ各地にあるのはそんな風習だろう。どこからかやってきた神が、多くはおそろしげな仮面の奥から人々を見つめ、怠惰を戒める。もてなす家は豊作を願い、新たな一年に気持ちを向ける行事だ▼国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に、わが国の「来訪神(らいほうしん) 仮面・仮装の神々」が登録される見通しとなった。今月下旬にも正式に決まりそうだ▼「男鹿のナマハゲ」を含め八県の十件である。写真などをみると壮観だ。「宮古島のパーントゥ」の南洋を思わせる異形の神など多彩さに驚く。民俗学者の柳田国男は列島各地の神々について<本来一つの根源に出(い)づることは…疑うことができぬ>(『雪国の春』)と書いた。確かに、同じ心象風景に収まる十件にもみえる▼継承に悩む土地も多いそうで、関係者は登録の正式決定に期待しているようだ。わが国の仮面と仮装も大切にしたいと思わされる。