一人の若者が土をこねているうちに、女の人形ができた。古代の大王は大いに気に入り、たくさんつくるよう人々に、命じる。それは「埴輪(はにわ)」と名付けられた。詩人の茨木のり子さんの創作である。ラジオドラマとして書いた作品『埴輪』だ▼穴でできた目や口、ユーモラスなポーズ…。素朴で、親しみも感じる造形の数々は、なんのために作り出されてきたかについて、謎も多いらしい。想像力をかき立てよう。ドラマでは、抑圧された若者が、埴輪づくりを機に創造に目覚め、自由を求めるまでになる▼仁徳天皇陵として宮内庁が管理する大山(だいせん)古墳について想像力を刺激するような発表があった。宮内庁と堺市の発掘調査で、周辺部の堤に土管状の円筒埴輪がびっしり並び、精巧な石敷きがあったと分かった▼研究者からは桁違いの労力という声があるそうだ。堤にまで石敷きがあるのは異例で、円筒埴輪は約七千本も並ぶ計算になるという▼一日二千人が働いても古墳築造に十五年以上かかるという試算があったが、それ以上労働力が必要だったようだ。大掛かりな築造の現場が浮かび上がる▼日本最大の前方後円墳として知名度は高いが、謎は多い。宮内庁が立ち入りを制限し調査は限られている。だれが被葬者かさえ議論がある。なぜこれほどの規模なのか。ドラマのような逸話があるのではないか。続きが知りたくなる。