<東京の屋根の下に住む若い僕らはしあわせもの>。灰田勝彦さんが歌った「東京の屋根の下」(作詞・佐伯孝夫、作曲・服部良一)は一九四八(昭和二十三)年のヒット曲というから、当時お聞きになったのは今の八十、九十代ということになるだろう▼終戦から三年。まだ戦争の傷痕が残る貧しき時代にあっても、その曲の中の二人は楽しそうである。<日比谷は恋のプロムナード><上野は花のアベック>▼明るい曲だが、その後に続く詞に時代を思う。<なんにもなくてもよい 口笛吹いてゆこうよ>。焼け跡、闇市。やはり若い二人は苦しかったのであろう。それでも<口笛吹いてゆこうよ>。どきんとする▼日本の出生数のピークはその流行歌の翌年四九(昭和二十四)年。約二百六十九万人の赤ちゃんが生まれている。それが今や約三分の一。厚生労働省によると二〇一六年に生まれた子どもの数は統計以来最少の約九十七万人。百万人をついに割った▼結婚したい。子どもがほしい。その望みがあったとしても、食べていけるか、仕事しながらうまく育てられるかの不安やためらい。それを社会が一つ一つ消してやらなければ、少子化に歯止めはかかるまい▼<なんにもなくても>のあの時代よりも、若い人が子を育てるのに適した明日を信じない時代では「なんとかなるさ」の口笛はいつまでたっても聞こえまい。