<はるが きたぞ/はるが きたぞ/はるの ほっぺたの/ぴっかぴかに/とびつけ くっつけ/ひっつけと/かんたんふたち/かんたんふたち/いっぱい いっぱい…>▼詩人のまど・みちおさんが「かんたんふたち」と呼んだのは、メダカのこと。なるほど、冬の間は水底でじっとしていたメダカが、春の訪れとともに泳ぎ始めるさまは、感嘆符「!」のようでもある▼この発見も「!」だろう。基礎生物学研究所の吉村崇さんらの研究で、メダカの色覚が季節の移り変わりとともに、大きく変わることが分かったという▼春、恋の季節を迎えると、メダカには婚姻色といわれる赤い色が浮かぶ。この色がより鮮やかに見えるように、赤などを感じる色覚の遺伝子が活発に働き始める。恋をすれば、風景も違って見える。そんな変化がメダカの目で起きているというのだ▼季節で色の見え方が変わるという仕組みは、人間にもあるらしい。冬と夏では同じ黄色でも見え方が違うことが、英国の心理学者の研究で分かっている▼猫や犬にはない赤と緑を見分ける色覚を霊長類は持っている。それはヒトの遠い祖先が、森の中で赤い実などを見つけやすくするために獲得したものといわれる。実りの秋をより鮮やかに見るために、<あきが きたぞ/あきが きたぞ>と働きだす遺伝子が私たちの目の底に、潜んでいるかもしれぬ。