「血に飢えた獰猛(どうもう)な動物を見ている気分」「このような胸のむかつく見世物(みせもの)」「残忍」-。「ペリー提督日本遠征記」にある。一八五四年三月の黒船来航時、ペリー一行が横浜で見た「胸のむかつく見世物」とは、日本側が招待して披露した相撲である▼初めての観戦でそう見えたのかもしれぬが、あまりの酷評である。相撲の「返礼」にペリー一行は電信機と鉄道模型を公開しているが、「(相撲のような)粗暴な獣のような力を誇示する代わりに科学と進取の精神を意気揚々と示すものだった」と書いている。今の日本人が読むと、いささか居心地が悪い▼「ほら、やっぱり」。ペリーの冷淡な声がどうも聞こえる。横綱日馬富士が貴ノ岩を暴行し、けがをさせた。「獰猛」「胸のむかつく」出来事と書かざるを得ないのがつらい▼酒席でのもめごとが原因と聞くが、心技体のいずれにも秀でたはずの横綱が心を乱し、後輩力士にビール瓶を振りかざしたとすれば、あまりに情けない▼「ムリヘンにゲンコツで兄弟子」とはよく聞く。今の時代にあってはこれでさえ、ほめられた上下関係ではないが、ゲンコツには鍛えたい、教えたいという熱もときにまじっていよう。そのビール瓶には、なにもあるまい▼暴力行為がなかなか絶えぬ角界である。事実関係の究明と徹底的な対策を願う。ネコダマシもカタスカシも通用しない。