<メトロを降りて階段のぼりゃ 霧にうず巻くまぶしいネオン いかすじゃないか 西銀座駅前>-。いかすじゃないかのフレーズがいかすじゃないか。フランク永井さんの低音がよみがえる「西銀座駅前」▼忘年会シーズンはまだ先とはいえ、その懐かしい「顔」をごらんになれば、つい鼻歌が出る世代もあるだろう。顔といっても地下鉄の車両。東京メトロが修復した丸ノ内線の500形を報道公開した▼赤い車体に白い帯と銀の波。正面から見るととぼけた味わいもある、その「顔」が愛(いと)おしくもある▼「西銀座駅」の駅名はとうの昔に消えているが、現在の丸ノ内線の銀座駅である。あの唄が一九五八(昭和三十三)年。500形の丸ノ内線デビューがその前年の五七年なので「西銀座駅」ともなじみ深い車両だろう。長いキャリアである▼今回、現役当時の姿に補修された経緯が興味深い。九六年の引退後、百三十一両がアルゼンチンの首都のブエノスアイレスの地下鉄に譲渡されて今も活躍している。今回、このうちの四両を買い取って里帰りさせたのは社員の技術向上のため、手動操作で走る旧式車両が必要になったためだそうだ▼壮年期は日本でがむしゃらに働き、老いては海外赴任で現地の役に。再び日本に戻って今度は若い人を教える。堂々たる仕事ぶりである。赤い車体の六十年の物語が<いかすじゃないか>。