「親子の無精」という小噺(ばなし)がある。ある夜、火事を出した。せがれが気づいて父親に教えるが、「めんどうくさい。おまえが消せ」。息子も息子で「おれだって、めんどうくさいや」▼火は燃え広がるが、親子はめんどうくさいと言い合うばかりで、いつまでたっても火を消さない。ついに全焼し、二人とも焼け死んでしまう。地獄で閻魔(えんま)さまに叱られ、動物にするといわれ、ならばと親父(おやじ)が望んだのが、鼻に白い斑点がある黒猫。「ご飯粒と間違えてネズミがやって来るかもしれない」▼あのばかげた噺を、いやでも思い出してしまう。博多発東京行きのぞみ34号の台車の一部に亀裂が見つかった問題である▼妙な臭いがする。変な音がする。運行中、それに気がつきながら、そのまま、列車を走らせてしまった。あの噺とは違い、めんどうくさかったわけではなかろうが、異常を放置してしまったことに変わりはない▼台車は破断寸前。写真を見れば首の皮一枚でつながっている状態である。「次の駅で、止めて点検したらどうか」の声も出たが聞き入れられていない。安全の神さまの声はことごとく無視されてしまった▼電車を止めなかったのは定時運行の一心からか。危険の中で守られるような定時運行に感謝する人は一人もおるまい。JR西日本は生まれ変わるべきだ。あのものぐさな猫ではなく、用心深く、俊敏な猫に。