太平洋戦争中、日本国民を苦しませたB29大型戦略爆撃機。米国での愛称は「スーパーフォートレス」。空飛ぶ要塞(ようさい)。強く厳(いか)めしい▼一方、当時の日本人はどう呼んだか。「ビー(B)公」である。この場合の「公」は「尊公」や「秀吉公」の尊敬ではなく「エテ公」「ワン公」の侮蔑と軽視の意味であろう。そう呼ぶことで爆撃機への恐怖を抑え込もうとしたのかもしれぬ▼してみると、この手の「道具」には二つの通称が付けられることになるのか。それで攻撃する側からの名と攻撃される側からの名である▼あってはならぬ事故が起きてしまった。佐賀県神埼市の住宅に陸上自衛隊のヘリが墜落した。住宅二軒が炎上し女の子一人が軽傷を負った。その子も間一髪のところだったと聞く。夕刻の住宅。平和を守るべき「道具」が平和を打ち破った。乗員が亡くなっている▼墜落したボーイング社開発の攻撃ヘリ「AH64D」の通称は勇猛果敢なアメリカ先住民の名からアパッチという。やはり、別の呼び名がある。アフガニスタン戦でこのヘリに攻撃されたタリバン兵はこう呼んだ。「ザ・モンスター」▼整備ミスが疑われている。再発防止に向けた原因究明と自衛隊ヘリ全機の整備徹底は当然である。民家を襲うような事故が続けば、日本を守るその道具は日本人から「ザ・モンスター」と恐怖を込めて呼ばれることになる。