教育基本法にはかつて、こういう条文があった。<第一〇条教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである>▼ここでいう「不当な支配」とは何か。この法が可決された一九四七年三月の国会で文部省の局長は、こう答えた。「従来官僚とか一部の政党とか…によって教育の内容が随分ゆがめられたことのあることは、申し上げるまでもないことであります」▼戦前の極度に国家主義的な教育行政で学びの場はゆがめられ、学校は子どもを戦争の道具に仕立て上げた。そういうゆがみを再び生じさせぬための要石として、「不当な支配に服さず」という文言が置かれたのだ▼この要石の重みを忘れたのか。文部科学省の官僚が、前川喜平・前文科次官を講師に招いた名古屋市立中学校に対して詳細な報告を求めていたことが明らかになった▼教育基本法は第一次安倍政権下で改められたものの、「不当な支配に服さず」との文言は残り、首相は当時「国家管理を強めることにはならない」と国会で明言していた。だが、官僚が個々の授業にまで口を挟むようなまねは「国家管理の強化」だろう▼前川氏は加計学園の学部新設をめぐり「行政がゆがめられた」と国会で証言していたが、こう言いかえた方がいいかもしれぬ。「行政がゆがめられている」。ゆがみは現在進行形である。