子どものとき、立ち読みをしていて、ハタキでぱたぱたと掃除をする店主さんに体よく追い払われたという思い出がある人もいるだろう。最近ではあまり見かけぬ光景か。「私も立ち読みの客をよく追い出したっけ」。作家で、古書店を営む出久根達郎さんが書いていらっしゃる▼ハタキにも「ルール」があるようだ。「三十分は立ち読みを黙認した。それ以上の時間になると、やおらハタキをかける」。客の方も心得ていてハタキが始まると「本を書棚に戻し、店を出ていった」そうだ。客の方にもまだ遠慮と分別があった▼三十分の立ち読みならともかく無料で漫画が読み放題とあれば、書店、出版社、漫画家の商売は成り立たぬ。漫画などを無料で読めるようにしている悪質な海賊版サイト対策として、政府はプロバイダー(接続業者)に対し利用者のネット接続を遮断するよう実質的に求めた▼海賊版サイトによる著作権侵害の損失額は約四千億円と推定される。クリエーターと業界を守るため早急な対策が必要なのは理解できるが、問題はそのハタキの強さである▼接続遮断に法的根拠はない。利用者の接続先をチェックするとなれば、通信の秘密や検閲禁止を定める憲法に触れないか。心配が消えぬ▼海賊は許せぬ。だが海賊退治にかえって、ホコリを立てる乱暴なハタキのかけ方も認めにくいだろう。よく議論したい。