歌は二番から先がいい。そんな説がある。昭和の流行歌を愛した演出家の久世光彦(くぜてるひこ)さんによると、一番の歌詞は、テーマに沿って、状況や登場人物を描写しないといけない。心情に深く立ち入るのはその先だから「しびれる文句」は二、三番にあるのだという▼挙げたのが西条八十作詞の名曲『蘇州夜曲』の三番だ。「船唄」「水の蘇州」「花散る春」など説明的な言葉が一番にあるのに対し、三番は<髪に飾ろか/口吻(づ)けしよか/君が手折りし/桃の花/涙ぐむよな/おぼろの月に/鐘が鳴ります/寒山寺>。好みはあろうが、味わいは深い▼二、三番がしびれる歌は確かに多い。同じ八十の詞で、昭和を代表する歌『青い山脈』。一番の詞の素晴らしさはそれとして<古い上衣(うわぎ)よ/さようなら>の二番により強くひかれる人は多いのではないか▼<雨にぬれてる/焼けあとの/名も無い花も/ふり仰ぐ>の三番は、一番と異なる趣がある▼世の中も二番から先がおもしろい。そう考えてはどうだろうか。会社や学校で、最初のひと月が過ぎるという若者の中には人間関係や職場になじめない人も多いはずだ▼顔を合わせてからの堅苦しい関係が終わって、人の味わいが見え始め、積み上がった仕事の中にやりがいを見つける時期だと考えては。古い上着を脱ぐように心の持ち方を少し変えてみる。「五月病」の薬の一つではないか。