一匹のクモの死が先週、欧米のメディアで取り上げられていた。オーストラリアで世界最高齢のトタテグモの一種が、四十三歳で死んだという。英紙テレグラフの電子版は<さようなら、十六番 「痛ましい」と科学者たち>と偉人の訃報のような見出しで伝えた▼クモは十六番と呼ばれる野生のメスで、一九七四年から観察されていた。古代からいるというこの種類のクモ、地面に穴を掘ってすむのだが、よほどのことがない限り一生同じ穴で生活する。転居や建て替えもしない。おかげで長く観察ができるという▼従来のクモの記録が、別種の二十八歳だから相当な長生きだ。だが、十六番が脚光を浴びたのは、単に記録からではない▼「持続可能性について学べるものだ」。そんな科学者の談話を載せた記事もあった。エネルギーの消費も新陳代謝も少ない定住生活が、長寿につながっていると観察によって分かったのだ▼持続可能という言葉、わが国にも根付いた感はあるが、世界中で成長が重視される中で、優先順位は一番ではない。ただ、このまま経済が永久に成長し続けることなどないと思えば、いずれは、最も重要な価値観になるだろう▼十六番の死因は、ハチに襲われたことらしい。五十歳まで生きてほしかったと研究者は嘆いている。つつましく一つの場所で生き、ヒトへの教訓も残した。考えさせる「訃報」だ。