<雨がザーザー降ってきて あられがポツポツ降ってきて あっという間にタコ入道>。子どもの時の記憶をたどれば、こんな感じではなかったか。何かといえば、タコの絵かき歌。雨はタコの足、あられは吸盤になる▼「雨がザーザー」ではなく「ザンザン」ではなかったか、あられは「パラパラ」だったはずという声が聞こえてきそうだがどれも正解である。この歌、地域によって伝承された、歌詞や絵が少しずつ異なり、その数は「二百種の画図と六百余の歌詞要素」という▼全国に伝わる、その歌の資料約三万点を集めて分析された人がいる。先日亡くなった、絵本作家の加古里子さん。九十二歳。「からすのパンやさん」など世代を超えて読まれた作品で知られる一方、子どもの遊びを研究し、後世に伝えることもこの人の大仕事であった▼タコの絵かき歌にこれほどの数がある理由について、遊んでいるうちに子どもたちがそれぞれのやり方を加えた結果だろうと加古さんは考えていた▼子どもの自由な発想によってちょっとずつ違うタコ。その多様性とそれを認め合う寛容さが加古さんの絵本の世界全体に生きていた▼若き日、師匠に弟子入りした。つまらなければ、そっぽを向く厳しい師匠とは子どもたちそのものだった。ここまで子どもを見、声を聞いた作家はまれであろう。寂しさに<雨がザーザー降ってきて>。