古川柳の<いらぬさし買って酒屋はしずかなり>。「さし」とは「銭さし」で穴あき銭を束ねるヒモのこと。そんなもの、誰も欲しくないだろうが、江戸時代に「臥煙(がえん)」と呼ばれる火消し人足たちが新規開店の店などを狙っては売りにやって来たそうだ▼当時の火消しだけに気性が荒い。買うのを断れば、「商売ものにケチをつけた」と店先で騒ぎだす。店の方では仕方なく、必要のない銭さしを買うしかなかったそうな。冒頭の川柳の酒屋さんもやられたのだろう▼このところ、自分の町内での売れ行きが悪いので、別の町内へ足を延ばして、売りつけようか。そんな臥煙の怪しい算段に聞こえてならぬ。何の話かといえば、銃である。トランプ米政権が銃器、弾薬の輸出手続きを簡素化する方針を発表した▼米国内での銃販売の不振を受け、海外に売り込みやすくする狙いだそうだ。対象になるのは軍事用ではない銃器というが、それでも人を傷つける危険な道具。安易な武器輸出拡大策が世界各地の内戦や紛争、事件につながらぬかを心配する。あの川柳でいえば、<いらぬ銃売って世界はしずかに>…なるはずもない▼自分のお国でさえ、厄介な存在になっている銃を商売かわいさでよそ様の国に売りつけてやろうという心根が気に入らぬ▼そういえば臥煙。素行の悪さから、やがて無頼漢をそのまま意味する言葉になった。