ちょっとしたスーパーにも、最近は各国の食べ物が並んでいて驚かされる。ワインやチーズなどで恩恵にあずかることも多いが、食のグローバル化をただ喜んでいるだけでいいのだろうか。フランス発の「カマンベール戦争」なるニュースを見た▼仏紙によると、ノルマンディー地方のカマンベールチーズ発祥の地には、手間暇がかかる伝統製法がある。それを厳格に守ったチーズを愛する料理人や生産者らが、新たな産地表示などに激しい不満を表明している▼大量生産の業者も、一定の条件を満たせば「ノルマンディーのカマンベール」を意味するEUの表示を使えるようになるからだ。大量生産品との競争に敗れることへの不安が膨らんでいるという▼国際競争の中で、政府が認める地域ブランドは強い武器だ。一方で商業的戦略が前面に立てば、きしみが生じるということだろう▼日本とEUの経済連携協定(EPA)は来年にも発効する見通しだ。日本も地域ブランドのために地理的表示(GI)保護制度を設けるが、愛知県の「八丁味噌(みそ)」を巡って、本場の同県岡崎市の老舗二社は登録から外れたままだ。二社がこだわる伝統の製法とは、異なる製法にお墨付きのマークが与えられるためで、地元は見直しを求めている▼食のグローバル化によって伝統が揺らいでいるとしたら、消費者としても喜んでばかりはいられない。