ロシアはことわざの宝庫だという。森林の国らしく、森のくらしや動物に関することわざ、表現が特に豊かだ。「ヒツジがオオカミを食べることもある」「湿った薪も燃え上がる」。見た目を裏切る強さを示す言葉を『ロシア語名言・名句・ことわざ辞典』などから引いた▼その北の大国で、劣勢の予想を見事に裏切る戦いをサッカー日本代表がやってのけた。ワールドカップの初戦で、強豪のコロンビアから挙げた金星である。時間がたっても高揚感は消えない▼「オオカミが怖ければ森へ行くな」は恐れを戒める言葉だ。先制点につながった攻め。大迫、香川選手らが恐れず前に出てものにした。格上相手に主導権を取りに出た西野監督の判断もさえた▼監督交代や長い不振などで、悲観的な材料だらけだった。ベテラン重視の選手選考も、その一つだろう。ただ前回大会の不振だけでなく、逆境からの戦いを何度も経験してきたのがベテランの香川、本田、岡崎選手らだ▼十年前の北京五輪を彼らの若い日本は三戦全敗で終えた。日本で待っていたのは冷めた空気。うなだれる姿を思い出す。「経験を無駄にしない」と岡崎選手は話した▼「古ギツネはわなにかからない」。経験を貴ぶ言葉もロシアには多い。ベテランが活躍した試合でもあった。逆風もそこからの再起も見せてくれる。サッカーの魅力に感じ入るロシア大会だ。